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COSMOS 第3号 / 1994年5月発行

こちらのページは佐久合氣道通信「COSMOS」コスモス(1993年7月から2002年10月刊行)に掲載されていた遠藤師範からのメッセージを抜粋して再掲載しております。

真のカルチャーを求めて

遠藤征四郎


「道場がほしいなあ」
「つくろうか」
「つくろうよ」
「遠藤どうするんだ、早く決めろよ」
「皆んなの協力がないとできないよ」
「じゃあ協力しよう」
「よしやろう!」 

 こんな会話を何度か繰り返し、佐久道場建設委員会を発足させて二年半、沢山の方々のご支援とご協力を得て、5月3日地鎮祭を行いようやく着工にまでこぎつけました。10月の下旬に完成の予定です。

 さて、150年前のイギリスでは、経済繁栄によって豊かになり、国民はいよいよ金もうけに走り、物質主義がはびこり、誤った自由思想と心の貧しさが目立った荒廃した社会になっていました。この時、マシュー・アーノルドは『教養と無秩序』という本の中で、この荒廃を救済するには「甘美と光明」(Sweetness and Light)の調和した理想、カルチャーしかないと主張しています。Sweetnessは美、Lightは知性を表します。アーノルドは、この世で最もすぐれた両者の統合したのがカルチャーだと考えました。カルチャーは個人の次元で“教養”、社会的には“文化”とふた通りの意味をもっています。

 わが国でも、経済の豊かさは精神の貧困をもたらすと注意されてきましたが、余暇の必要性と文化、教養、教育への関心が高まっている今日、カルチャー教室は隆盛をきわめ、個人の生涯学習の動き、企業の文化擁護のメセナ活動も広がってきました。理念不在のため俗化されつつあるのは残念ですが、アーノルドが言う方向へカルチャーが見直されていく足掛かりとなればと思っています。

 合気道は、昭和三十年代から国内で、四十年代から海外で広く普及され現在沢山の道友が稽古に励んでいますが、広がりの早さに見直しが追いつかず、様々な問題が未解決のまま取り残され、開祖の高邁な理念も忘れられつつあります。私に於いてはいぜんとして日々模索中ですが、開祖の理念を求めつつ社会の一隅を照らしてゆければと思っています。(1994年5月)